大会長挨拶

武蔵野大学 薬学部 薬学研究所 教授

大塚 誠

 

世界で稀に見る高齢化社会を既に実現した我が国では、社会の健全化のために、健康で経験に富み賢い高齢者を人生の達人として、どのように社会で活躍していただくかが、大きな問題となっています。ここで、高齢者の健康の根本的な基盤は、「医食同源」の言葉が示すように「食」にあり、「健康」は「食」を通じて歯科医療に支えられています。一方、近年の歯科医療の発展は、歯科技師の技術の向上だけではなく、関連する医療機器や医薬品の進歩による寄与が多くあります。パノラマデンタルX線やCT装置などの診断装置はもとより、麻酔薬や抗生剤などの放出制御製剤の開発、さらにステンレス、セラミックスおよびポリマーなどの生体親和性材料の発展も大きく貢献しています。特に、歯科インプラント医療領域では、20世紀のチタン金属の発明や手術道具などの進歩でインプラント治療の成功率を飛躍的に向上させてきました。近年では、コンピュータの発展と普及により各種医療機器のデジタル化、カルテの電子化、CAD/CAMや三次元プリンターによる補綴物の三次元設計や製造など、その進歩は目まぐるしいものがあります。歯科医師は、これらの最新技術の使いこなし、有効で安心・安全な先端歯科医療を広く万人に広めることにより、我が国の高齢化現象を健康長寿・幸せな国づくりに変える貢献することが望まれています。

 

私自身は、これまでに、薬学領域の製剤学を専門分野として、歯周病や骨関連薬物送達システムの構築をしてきましたが、歯科医師の皆様と連携し、新しい医療機器、歯科材料や医薬品の開発をとおして、口腔歯科領域の臨床家を支援し、歯科医療の発展に貢献したいと考えてきました。

 

そこで、今回、第9回バイオインテグレーション学会を武蔵野大学薬学部で開催するにあたり、主テーマを「バイオインテグレーションを支える基礎科学-医歯薬学の融合」とさせていただきました。特別講演Iとして、東京大学医学部、星和人先生に「硬組織生物学の再生医療への応用と展開」として、再生医療の基礎から臨床までの講演いただきます。特別講演IIして、東京医科歯科大学歯学部の春日井昇平先生から「インプラント治療における薬剤の使用方法」として、インプラント治療を成功させるために必須の薬物治療指針を明示いただきます。大会長講演では、ハイドロキシアパタイトセメントを基盤とした薬剤放出制御デバイスの研究事例をとおして、医歯薬の融合研究による医薬品・医療器具複合化デバイスの開発過程を紹介したい。一方、シンポジュウムIでは、「インプラント歯周炎~予防と治療」に関して、東京医科歯科大学歯学部、竹内康雄先生、昭和大学歯学部、宗像源博先生、松井歯科医院、松井孝道先生からインプラント治療を成功に導く歯周炎の制御に関する貴重な経験を賜ります。シンポジュウムIIでは、愛知学院大学薬学部、山本浩充先生から「バイオフィルム感染治療を目的とした高分子ナノ粒子DDS製剤の開発」として、治療困難な疾病への最新の薬剤適用法の解説をいただきます。シンポジュウムIIIでは、武蔵野大学薬学部の三原潔先生から「歯科領域で役立つ抗菌薬の体内動態」として、基礎的な薬剤の適用法が患者薬物血中濃度を通して薬理活性をどのように制御しているか、歯科臨床の先生方へ分かり易い解説をお願いしております。これら基礎科学から歯科臨床を広く網羅する講演に加え、多数のポスター・口頭発表一般講演を用意しております。

 

    本大会では、これまでバイオインテグレーション学会が示してきた幅広い学識研究分野を包含する特徴を活かし、基礎科学が医科歯科の臨床を融合的に支える科学的基盤の構築を目指していきたいと考えております。熱意ある発表・討論から新しい学問研究や医療が生まれます、多数の皆様の参加・御来場を、心よりお待ち申しております。